肥料の基礎:発酵鶏糞

鶏糞には乾燥鶏糞、発酵鶏糞、炭化鶏糞などさまざまな方法で処理されたものが市販されている。安価でリン酸、カリ、窒素が含まれている有機肥料である。 土に混ぜてもガスを発することが少ない発酵鶏糞について特徴や施肥法、注意点などをまとめた。

1.発酵鶏糞の特徴

発酵鶏糞は

①安価である(15kg袋入り150円程度)

➁有機肥料の中では即効性有機肥料である。

③比較的窒素分が少ない(1~4%)。

④リン酸(4~7%)、カリ(3~4.5%)が多い。

⑤C/N比が低い、10以下のものが大部分。

➅安全性が高い。

などの特徴がある。 薬事法第83条の2に基づく省令第3条により、養鶏に抗生物質等の使用が規制されている。

抗生物質等の薬物を使用しての鶏卵の出荷は法律違反となる。 従って、国内の鶏糞は安全性が高いと考えている。我が菜園では安価な即効性有機肥料として有機栽培のメイン肥料として使用している。

2.製造法

発酵鶏糞は生鶏糞(鶏の排泄物、水分25~35%)を乾燥・発酵させた有機肥料である。水分を15~17%程度に減少させ発酵を抑えている有機肥料とも言える。

発酵鶏糞の製造法は、小規模な農家では「堆積・切返し」方式、大規模な事業所では「スクープ式」や「ロータリー式」の攪拌装置が用いられている。 堆積期間、切り返し間隔及び攪拌頻度等は様々である。加水処理をする、混合物や発酵促進資材等を添加される場合もある。

家庭菜園用にホームセンターで販売されている発酵鶏糞(粉状、粒状)は、大規模な事業所で製造されている。 発酵鶏糞を保管している袋に雨水が入ると

①水が少ない場合は大きな塊が出来、ハンドリング性が悪くなる。

➁水が多い場合は発酵が始まりベトベト状となり異臭が発生する。

などが起こる。

保管時に水が浸入しないように注意する必要がある。

3.土づくり

発酵鶏糞は腐植の基となる炭素(C)の量が少なく、C/N比も10以下と低い。このため地中で容易に分解され易い特徴を持っている。

腐植とは土壌の有機物含量の指標、腐植含量が多くなると土壌の色は黒くなっていく。通常の土壌では腐植として3%以上あることが望ましいとされている。

砂質土壌などでは少なく、多腐植質黒ボク土、泥炭土では110~15%、それ以上あることもある。腐植は単年で生成される物ではなく、生成には長い年月を必要とする。

発酵鶏糞は腐植含量の増加や土壌の物理性(排水性、保水性)の改善効果はあまり期待できない。このため、保肥力などを高めるためには堆肥と組み合わせて施肥する必要がある。

4.発酵鶏糞の肥効

発酵鶏糞の分解(無機化)に及ぼす時間や温度の影響を以下に示す。
(1)時間 発酵鶏糞は施肥後4週間以上経過するとほとんど窒素が無機化しなくなる。播種や定植の1か月以上前に鶏糞を施用する場合は、窒素の肥効はあまり期待できない。

また、鶏糞施用後1週間は窒素の取り込みが起こり、土壌中の窒素の状態が不安定となる。播種・定植まで1週間程度間隔をあけるか、施肥量を調整する必要がある。

(2)温度 発酵鶏糞は、地温が低くなると窒素の無機化量が少なくなる。地温20℃で無機化する窒素の量は、30℃で無機化する量の80%程度に低下する。10℃では30℃の60%となる。 10月になると平均地温が20℃以下になるので、鶏糞の窒素を活用するためには、9月中に播種または定植する必要がある。

5.野菜栽培における利用

現在野菜などの作物栽培に発酵鶏糞を元肥や追肥として多用している。発酵鶏糞の成分は、窒素2.5、リン酸5、カリ6とリン酸とカリの多いアルカリ性肥料である。

生育土壌pHがアルカリ性に近い「アスパラガス、キュウリ、トマト、カボチャ、ホウレンソウ、エンドウ、トウモロコシ、小麦」などに発酵鶏糞を多く用いている。

ジャガイモは「そうか病」を対策としてアルカリ性の発酵鶏糞は施肥しない。発酵鶏糞を施肥している畑では栽培しないようにしている。

(1)窒素肥料 発酵鶏糞を元肥の代替肥料として利用する場合、基準窒素施用量の50%程度を代替するように施肥している。残りの50%は油粕を利用。 発酵鶏糞の窒素を元肥として利用する場合は、鶏糞中の窒素が無機化する期間が「4週間程度」と短いので追肥が必要となる。こまめな追肥をしている。

発酵鶏糞を追肥に使用する場合、発酵鶏糞を液状化した「発酵鶏糞液体肥料}(粉状200gを2リットルのペットボトルに投入し液状化)を用いている。 窒素、リン酸、カリの他に、塩基アンバランス(pH)や微量ミネラルなどの欠乏症に留意する必要がある。微量ミネラルは草木灰やグリーン堆肥で補っている。

(2)リン酸・カリ 発酵鶏糞からリン酸やカリなどの養分を利用する場合は、各作物の栽培基準に必要な養分を供給できるように鶏糞の施用量を計算して施肥する。

生育土壌pHがアルカリ性に近いアスパラガス、キュウリ、トマト、カボチャ、エンドウ、トウモロコシ、小麦には発酵鶏糞を多く用いている。   但し、リン酸や石灰の過剰供給にならないように注意する必要がある。

(3)土壌pH

発酵鶏糞はpHが8~9前後の高いアルカリ性肥料である。一般に生糞は酸性(pH6.0程度)であるが、製造時に発酵する菌が活発に活動するにはpH8.0~9.0が最適となる。

好気性発酵が進むとNH3が大量に発生する為、 アルカリ性(pH8.0~9.0)となってしまう。

発酵鶏糞全面散布する際は、苦土石灰等のアルカリ資材は様子を見て補う程度、基本的には施肥する必要は無い。マグネシウムの補給をするため苦土石灰を施肥している。

ジャガイモを栽培する場合、「そうか病」を予防するためアルカリ性の発酵鶏糞は施肥しない、発酵鶏糞を施肥している畑では栽培しないようにしている。

6.終わりに

子どもの時の農家では10~20羽程のニワトリを放し飼いで飼っていた。鶏が休む棚には鶏糞が溜まるので、かき取り庭で乾燥させていた。

鶏糞から発する強烈な異臭に鼻を摘まんだものである。現在はこのような異臭を嗅ぐことも無い。今後も安価な大量生産の副産物を有効利用したいと考えている(2017年10月10日改正)。

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